confeito 第4号(2008年9月1日発行)より
京に上る
変身 貴子

去年から、2泊3日で京都に行っている。お寺や神社や観光が目的ではない。どちらかというと、そっちの方がおまけである。もちろん、お寺や神社にも行くには行くのだが、神妙に弥勒菩薩を眺めているときも、ビルの谷間に清明神社(かの、陰陽師安倍晴明を奉った神社です)を見つけて感動しているときでさえも、わたしの心はとある場所に飛んでいる。とある場所、それは『舞妓変身処』である。
そこは普通の人を舞妓さんに変身させてくれるところである。「舞妓さんに変身って、年齢とか関係あるんじゃないの?」と思われるかもしれないが、大丈夫、今まで聞いた中の最高齢は78歳の女性であるという。全てではないが、中には男性を舞妓に変身させてくれる店もあるそうだ。けっこう敷居は低いのである。
去年は伏見に、今年は西陣にある変身処に行ったのだが、今回のお店は変身好きの間では鳴り物入りのお店である。本物の舞妓を撮るプロのカメラマンが営む店なので、その写真のできばえは言わずもがな。(見たいというキトクな人には有料で見せてあげます。)本物の舞妓のポージングを熟知しているので、ふだん大股開きでイスに座っているようなわたしでも、彼のいうとおりに動いてさえいれば、あっという間にいっぱしのはかなげな舞妓に見えてしまう。その証拠に、神社で撮影していたら、外国人の男の子に写真を撮らせてくれと頼まれた。これは、おそらくわたしを本物の舞妓と思ってのことだろう(と、信じたい)。
さらにこのお店のいいところは、着物の数が少ないところ。去年の店はあまりにも多かった。多すぎて、決められないのだ。決めるのに一時間もかかってしまい、店のおばちゃんに呆れられた。しかし、今年の店は数が少ない代わりに、本物の舞妓さんが着ていた代物なので、すべてウン百万というもの。舞妓の写真を撮っている関係で、舞妓から直接払い下げを手に入れられるのだそうだ。それらの着物には金糸や銀糸がふんだんに使われ、豪華絢爛とはこういうことを言うのだなあ、と思った。成人式の着物なんて比べ物にならない。せっかくなので、祇園で売れっ子ナンバーワンだった舞妓さんの払い下げ、という、半襟にびっしりと銀糸で刺繍を施した着物に決めた。ちなみに、帯と合わせて300万円以上なのだそうだ。
着物を決めると、店の奥様がヘアメイクを施してくれる。顔には鬢付け油を塗り、その後白粉を刷毛で塗りたくる。鬢付け油を先に塗るのは、顔に汗をかいても化粧がくずれないため。歌舞伎役者も同じ化粧法であるらしい。そういえば、化粧崩れしてる歌舞伎役者なんて見たことないもんな。
メイクが終わると半カツラをつける。前髪とサイドの髪を残し、「われしのぶ」という、舞妓になって3年以上のお姉さん舞妓がする髪形のカツラを載せ、前とサイドの自分の髪をなじませていく。全カツラオンリーの店もあるが、自分のおでこの肌とかつらにくっついている偽肌がうまく馴染まないことが多いらしいので、半カツラか地髪結いのお店を選んでいる。ちなみに、去年の店は、元舞妓の髪結いさんのお店だったので、地髪で結ってもらった。今わたしが前髪を伸ばしているのは実は舞妓の髪を結うためだったりするのだ。
髪が終わるとかんざしをつけて変身はいよいよフィニッシュを迎える。舞妓のかんざしは舞妓歴や月々やイベント毎に決まりがある。ちょっと季節がずれたが、着物に合わせて藤の花が垂れているかんざしを選んだ。額にはらりとこぼれかかるかんざしの、そのたよやかさ。自己満足の極みである。プロのカメラマンに蝶よ華よとおだてられ、夢うつつの中で今回の旅は完了した。
来年は、京人形チックなメイクをしてくれるというお店に行ってみようと思う。わたしの京に上る旅は、まだまだ続くのである。
